【専業主婦に罪悪感がある人へ】朱野帰子さんの『対岸の家事』のあらすじ・感想

読書

こんにちは、絶賛専業主婦中のつかりーんです。

仕事を辞めて妊娠中ですが、ずっと家にいるとなんだか専業主婦であることに罪悪感が芽生えることがあります。

家計に余裕があるわけではないのに稼いでいないことや、こんなに元気なのに働かなくて良いのだろうか・・・と、今の状態に不安になってしまうこともしばしば。

(暇だから余計に考えちゃうのかな?笑)

別に他人から責められているわけでもないのに、「今ドキ専業主婦なんてヤバイよ」と言われているみたいで、自分の選択に自信をなくしてしまうことも。

そんな私に、専業主婦の選択も間違ってないよ、と自己肯定感を取り戻させてくれたのが朱野帰子さんの『対岸の家事』という小説

朱野さんは、以前ドラマ化された『わたし、定時で帰ります』の著者です。

労働をテーマにした作品を書かれることが多いのでしょうか。

今回は、主婦が主人公である『対岸の家事』のあらすじと、これから子持ち専業主婦になる私目線で感動したおすすめポイントを紹介します。

家事・育児に奮闘している方に是非おすすめしたい一冊です。

(いや、身の回りにそういう人がいる人にも読んで欲しい!)

特に育児がメインな印象です!

現実のバタバタ感を彷彿させる描写が魅力!

あらすじ

家族のために「家事をすること」を仕事に選んだ、専業主婦の詩穂。娘とたった二人だけの、途方もなく繰り返される毎日。幸せなはずなのに、自分の選択が正しかったのか迷う彼女のまわりには、性別や立場が違っても、同じく現実に苦しむ人たちがいた。二児を抱え、自分に熱があっても休めない多忙なワーキングマザー。医者の夫との間に子どもができず、姑や患者にプレッシャーをかけられる主婦。外資系企業で働く妻の代わりに、二年間の育休をとり、1歳の娘を育てるエリート公務員。誰にも頼れず、いつしか限界を迎える彼らに、詩穂は優しく寄り添い、自分にできることを考え始める――。


講談社BOOK倶楽部

専業主婦の詩穂が主人公ですが、他にもワーキングマザーや育休中の主夫、独身で親の介護をする女性や、子供がいない妻など、様々な立場の人が出てきます。

全7話から成りますが、それぞれの章で各人物にスポットが当たり、7つの短編を通して1つの物語ができているような感覚です。

おすすめポイント

主婦は味方を増やしておくのも家事の一つ

主婦っていういのはそういうものよ。味方を増やしておくの。そうしたら、いつか自分がいなくなった時に、その人たちが苺ちゃんを助けてくれるから。大変だし、しんどいけど、これも立派な家事の一つよ。

対岸の家事 p58

詩穂は娘の苺を連れて公園に行った時に、育休中の主夫であるエリート公務員の中谷と出会うのですが、中谷が専業主婦を見下すような態度をとることに詩穂は腹を立てます。

そのイライラを近所に住むベテラン主婦(70歳)の坂上さんに聞いてもらうのですが、坂上さんが「嫌いな相手でも仲良くしておいた方が良い」と詩穂にアドバイスした時のセリフが上の引用です。

主婦はママ友とお茶してお気楽ね〜なんて言われがちですが、自分の周りに味方をたくさん作っておくというのは実はとても重要なこと。

それは自分のためだけでなく、大切な子供を助けてくれる人が増えるということにも繋がるんですね。

小説の中では、詩穂が後々トラブルに巻き込まれた際に中谷が力になってくれる場面があります。

仕事ではよく、嫌いな人とも上手く関わって自分の味方を増やしておくと仕事がしやすくなると言われますよね。

オフィスでもご近所でも、自分たちが孤立しないように、いざとなったら頼れる味方を増やしておくというのは生き抜くために必要なことなんだと再認識させられる場面です。

プレイする側がバグ報告して業界を育てる

ルール設定がめちゃくちゃだったり、厳しすぎたりして、誰もクリアできないゲームのことです。ファミコン初期のころに出回ったんです。

対岸の家事 p103

プレイする側がバグを見つけて、メーカーに報告することなんかざらですよ。そうやって業界を育てていかなきゃダメなんです。

対岸の家事 p104

ワーキングマザー礼子の後輩が、礼子が置かれている子育てと仕事の両立の話を聞いた時に「無理ゲーだ」と呟きます。

そして、クリアできない無理ゲーはバグだから、プレイする側がバグを指摘してゲームを改善していかなければならないということを話しているのが上の引用の場面です。

子育ては「こんなの無理だよ」と思うルール設定や規則が多いです。

例えば子供が熱を出した時に預ける病児保育は空きがないため、仕事を頻繁に休まなければならないこと、兄弟で同じ保育園に入れないことが多く、別々の保育園に預けなければならないことなど。

仕事と子育てを両立するには難しい条件が多くて、でもこういう決まりだから仕方ないと諦めながら「自分が頑張ればなんとかなる」と気合いで乗り切っている人が多いと思います。

ただ、意外と周りの人はそんな無理ゲーな設定になっていることに気がついてないことも多いです。

この小説の後輩も、礼子から話を聞くまでは子育てと仕事の両立がそんなに大変とは思っていませんでした。

周りの人に勇気を持って「こんな辛い状況なんだ」というバグを打ち明けることで少しずつ改善されて、いつか今よりもっと良い状況に変わるかもしれません。

どうしても「仕事も育児もやるのは自分で選んだ道だ」「好きで産んで育ててるのに、育児が辛いと声をあげるのは我儘だ」と思い詰めすぎてしまいますよね。

でも、バグを解消していくことは後の世代にとって大切なはず。

私もいつか働きに出る時には、このことを思い出して乗り越えていきたいと思いました。

大きな穴に落ちた時に見つける「紫陽花」

小説の随所に「紫陽花」が登場します。

紫陽花は、詩穂が中学生の頃に病で亡くなった母親から「いつか探してみてね」と言われた花。

雨の季節に日陰で咲く紫陽花は、普段はあまり人目に触れることがありません。

でも、日陰に咲く華やかな紫陽花は、日陰に目を奪われるような「大きな穴に落ちた人」を救う花としてお話しの中で位置付けられています。

詩穂にとっては愚痴を聞いてくれる坂上さんが、紫陽花のような存在でした。

そして次は詩穂が、礼子や中谷など、近所で出会った崖っぷちの人々を助ける紫陽花のような存在となっていきます。

それまで私は主婦でいよう。そう思った。時間はたっぷりあります、と微笑める人でいよう。

対岸の家事 p307

最近は、周囲に対して良くも悪くも無関心です。

だからこそ、家庭の問題は家庭の中だけで解決しなければならない、他に迷惑をかけてはならないという気持ちになってしまうかと思います。

でも、探せばきっとどこかに紫陽花は咲いているんだ、と思わせてくれる表現でした。

皆が皆余裕が無くて、自分のことで精一杯な世の中は、とても息苦しいです。

専業主婦は紫陽花になり得るんだと思うと、大切な役割だと感じます。

感想

どの登場人物も、キラキラした部分だけではなく闇の部分が丁寧に描かれているので、とてもリアルな物語でした。

端から見るとお気楽で悩みなんて無さそうな主婦も、キラキラしてるワーママも、時代の先端をいく優良企業で働く育休中の主夫も、みんな必死で生きているんだなと。

そして、「自分の選択が正しいと思いたい」という心理で人を見下したり、軽蔑したり、そういう描写も生々しく描かれています。

そんなネガティブな心理描写でも、登場人物の背景が丁寧に描かれているので理解しやすく、読みやすい作品だと思います。

「対岸の家事」というタイトルも秀逸で、まさに対岸の火事だと思っていたのに、とあるきっかけで関わるようになり、最終的には川に橋をかけて鎮火するような後味の良い物語でした。

「専業主婦でいいのかな?」と私も罪悪感を覚えることがありますが、きっと働いていたらそれはそれで「こんなストレスフルで余裕のない毎日で家族は幸せなのかな?」と悩んでいることと思います。笑

どんな立場の人にも悩みはあることを忘れず、周囲の人と助け合っていけば、どんな状況でも大丈夫!と前向きにさせてくれる小説でした。

子供が生まれたらもっと共感するところがあるんだろうなーと思うので、数年後にまた読み直してみたいです。

ではまた!

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